2016.08.16

沖縄生まれのオーダーメイドデニム「ダブルボランチ」、全国のジーンズ好きを魅了するそのこだわりに迫る


ファミマガ読者のみなさま、はじめまして。「micropress(ミクロプレス)」の草野裕樹です。10年前から住んでいる沖縄で、編集工房を立ち上げて6年目。普段は雑誌や新聞などを通して沖縄の魅力を紹介させて頂いています。このファミマガでは沖縄の魅力的な作り手さんを紹介していきたいと思います。

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Double Volante(ダブルボランチ)オーナーの國吉遊さん

1800年後半に、坑夫たちの作業着として作られたワークパンツが原型となり誕生したジーパン。現在は、作業着からファッションアイテムへと役目が変わり、気軽にストリートで着こなせるパンツとして人気を得ている。

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リーバイスやエドウィンといった誰もが知る大手メーカー以外にも、小規模だがこだわりの強いジーパンを手掛けるアパレルメーカーが多数あり、市場には、多種多様なデザインが流通している。そんな群雄割拠のデニム業界でひときわ異彩を放っているのが、沖縄市に工房を構える「Double Volante(ダブルボランチ)」だ。

ちなみに工房名のダブルボランチは、オーナーの國吉さんがサッカー好きなこともあり、サッカー用語から。ボランチは舵取りの意味があり、お客とふたりで舵を取り、1本のジーパンを仕上げていきたいという、想いから命名。

 

1人の職人の手から生み出されるデニムパンツ

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住宅街にひっそりと構えた工房内には、8台のミシンが並ぶ。これら8台のミシンを巧みに操り、オーダーデニムを手掛けているのが國吉遊さんだ。元々は作業着だったジーパンは、1本のコストを落とす目的もあり、工場にて、大量に生産するのが一般的。しかし國吉さんは、ひとりひとりと対面して寸法を測り、身体に合ったこの世でひとつの一本のジーパンを手掛けている。しかも、分業が基本の中、デザインから縫製、生地やパーツ選び、営業まで、そのすべての作業をひとりでこなしている。

DoubleVolante

工場に勤めていた頃はミシンに向き合うだけの日々でした。沖縄で独立したときは、ひとりですべての作業に携わってみたかった」。

 米軍基地の近くで育った影響もあり、高校時代からアメカジにはまっていた國吉さんは、販売する側ではなく、作る側への興味が沸き、知人の紹介で、ジーパンのメッカでもある、岡山県児島の工場に就職した。縫子のほとんどが年配の女性という環境の中、ただひたすら縫い続け、気づけば10年の月日が経っていたという。

 

悔しさから生み出された自分なりの表現方法

DoubleVolante2ボタンホールを制作する専用ミシン

始めの1,2年は『俺ってすごいかも』って少し調子に乗っていました。でも、毎日単調な仕事が続く中で、心が折れそうになり、2年くらいは好きだったはずの服が買えなくなるくらいに滅入った時期もありました。それでも『辞める』という選択肢はありませんでした」と振り返る。

憧れて入った職なのに、実際にやってみるとイメージと違い、戸惑ってしまうことは、他の業種でも見られる光景かもしれない。当時の國吉さんを支えたものはなんだったのだろうか。

悔しさですかね。沖縄から来た人間が、『根性なし』『役立たず』と思われるのが悔しかった。その想いが自分の支えとなりました。それでも続けていくうちに、次第に新しいおもしろさを発見できました。同じ作業を繰り返すことで、数ミリ単位の違いが分かるようになりました。例えば、1cmのステッチ幅よりも8mmの方がカッコ良く見えてきたりとか。「ふんわり」とか「すこし荒く」といった機械で表現できない微妙な風合いも手しごとなら表現できます

 

徹底的なこだわりがもたらすデニムへの付加価値

doublevolante_041950年製のユニオンスペシャル。ジーパン好きなら誰もがこだわるチェーンステッチと言われる技法で縫製するミシン。

単純作業をやり続けたからこそ分かる職人の感覚は、独立後のモノ作りにも生かされている。1950年代のジーパンが好みだという國吉さんは、当時の製法にこだわり、あえて旧式のミシンを使用している。中でもビンテージデニム好きがこだわるチェーンステッチという縫製で縫えるミシンは1950年代製と、沖縄にも数台しかない稀少品。

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チェーンステッチという技法で縫い付けた裾/写真提供:Double Volante

他にもボタンホールを空けるためだけに使うミシンや、ベルトループのみを作るだけのミシンなど、それぞれのミシンに役割があり、1台が壊れるだけで、制作はストップしてしまうという。

ミシンが壊れることが一番怖い。沖縄では直せる職人がいないので、壊れたときは、大阪から来てもらっています。コストは掛かりますが、当時の風合いを出すためにも、このミシンにこだわっていきたい」と話す。ビンテージのジーパンを好む職人だからこそ通じる部分も多く、コアなお客の細かい要求が後を絶たないという。

ステッチをまっすぐ縫わないで、歪ませて、あえて汚くつくってほしい、といった要望や、4枚の異なる生地を組み合わせて仕上げてほしいといった要望など、自分も驚くアイデアを伝えて来る方もいます

 

沖縄の伝統工芸とデニムのコラボレーションも

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 過去には、作家からの依頼で、芭蕉布の布を組み合わせたり、革や紅型柄の生地をとりいれたりと個性的なジーパンも手掛けた経験もあるという。

沖縄の工芸の方とつながりが持てたのはうれしかった。そのたびに刺激をもらっています

 岡山県児島から沖縄に戻り8年。周囲の反対をよそに、生まれ育った沖縄でデニム工房を立ち上げたことが、多くの人とのつながりをもたらせた。

一人でやろうと思ったときに、難しいという声は耳に入りました。それでも一人でやったことが逆に興味を持ってもらえたのかもしれません。自分に興味を持ってくれた人たちに感謝したいですね。最近、インスタグラムを始めました。今、タイでも古いジーパンがブームのようで海外からの注文もあり驚いています。昔ながらのミシンが生み出す味わいをこれからも作っていきたいです。

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向こう布に琉球藍と芭蕉の布を取り入れたジーパン/写真提供:Double Volante

 


取材協力
Double Volante ダブル・ボランチ
[住所]沖縄市久保田2-30-12(MAP
[電話] 098-932-2286 
[ブログ] http://doublevolante.ti-da.net/
[Facebook]https://www.facebook.com/Double-Volante

文・写真:草野裕樹(ミクロプレス)
HP:http://micropress1219.com