2022.01.04

ムーチー(鬼餅)で病気を吹っとばす!?今に残る昔ばなしと健康祈願


沖縄で親しまれる「ムーチー」ってなに?(ムーチーの日付や概要)

寒い季節に行う行事と言えば、ムーチー(鬼餅)ですよね。今でも幼稚園や保育園ではムーチー作り会が行われるなど、楽しくあたたかく親から子へと現代につながる、沖縄の旧暦行事のひとつです。

寒い季節の健康祈願として親しまれるムーチーは、毎年旧暦12月8日に行われます。次回の旧暦12月8日は「2022年12月30日(金)」です。

そしてムーチーにまつわる沖縄ならではの昔ばなしも特徴的です。

では今回は、沖縄南部の漁師町で暮らす濱比嘉珠子(はまひがたまこ)が、今も親しまれる沖縄の旧暦行事、ムーチーの豆知識や昔ばなしをお伝えします。

 

ムーチーの昔ばなし(ムーチーの逸話)

ムーチーの昔ばなし

沖縄県内にはムーチーにまつわるさまざまな伝説がありますが、そのなかでも知られるエピソードが、那覇市首里の金城に伝わる「人食い鬼になったアヒー(お兄さん)」です。

その昔、首里の金城に兄と妹が二人で暮らしていました。妹の名はウター、お兄さんを「アヒー(兄ちゃん)」と呼んで、とても慕っていました。両親は幼い頃に亡くしてしまい、兄妹で力を合わせ慎ましやかに暮らしてきたのです。

けれどもある日、年頃になったウターに婚姻話が届き、久高島へと嫁いでしまいます。今まで「ウターのために」と頑張って生きてきたアヒーは心の支えを失い、とうとうひとりぼっち、天涯孤独です。

寂しくて寂しくて、生きる気力を失ったアヒーは近所のお家から牛や豚をさらい、食べ始めます。繰り返すうちに少しずつ、ひとつ、またひとつとマブイ(魂)をマジムン(鬼)に奪われてしまいました。

そして7つ目、最後のマブイ(魂)をマジムン(鬼)に奪われたアヒーは、とうとう村の子ども達に手を染めてしまいます。見た目はアヒー、でも心はマジムン(鬼)。村の子ども達をさらっては、むしゃむしゃと食べるようになってしまいました。

ムーチーの昔ばなし

遠い久高の島で伝え聞いたウターは、アヒーが人食い鬼になっているなんて、ゆめゆめ想像ができません。

慌てたウターはまだ幼い娘をおぶり、首里金城のアヒーを訪ねます。するとアヒーは昔と変わらぬ笑顔でウターを迎えました。

「よく来たウター、今ちょうど精力が出る良い薬を煎じているぞ。飲んで行くといい。」と言います。「精力が出る薬って?」ウターが不思議に思いお鍋のなかを覗いてみると、そこには子どもが入っているではありませんか!

「これは私の子どもも食べてしまい兼ねない!」と、ウターはアヒーに「フールー(お便所)へ行こうねぇ。」と家を出ようとします。

けれども、ウターが娘を連れて逃げて行くかもしれないと感じたアヒーは、ウターの手から縄を繋いで逃げられないようにしました。

そこでウターは縄をほどいて、その先を石に縛り、サバニ(漁船)に乗って逃げようとします。

一方、まだかまだかと待ち侘びていたアヒーも、ウターに逃げられたことに気付き、慌てて海まで追いかけてきたのですっ!

「逃げられない!」と悟ったウターは、サバニをひっくり返したその下に隠れますが、アヒーはなんと、ひっくり返ったサバニの上に乗って海を見始めました。

息をひそめてサバニの下に隠れるウター。アヒーは遠く海を眺めながら、「アイヤー!せっかくのご馳走を食い損ねたっ!」と文句を言いながら帰って行きます。

「あぁ、やっぱりアヒーは娘を食べる気だったんだね…。」悲しい気持ちになるウターですが、見た目はアヒーでも中身は鬼だと悟りました。

ムーチーの昔ばなし

それから数日たった日のこと、ウターは再びアヒーの家を訪れます。

「アヒー、アヒー!この間は急に帰ってごめんねぇ。今日はね、お詫びにアヒーが好きなムーチー(餅)を、たくさん、こしらえてきたんだよ。仲直りに金城パンタで海を見ながら一緒に食べよう!」

「しめしめ…。」アヒーは何も知らず、ウターに言われるがまま金城パンタまで来ると、バクバクとムーチー(餅)を食べていきます。

でもこのムーチー、実はウターが智慧を絞って、なかに瓦を入れて包んだものでした。

「あぁ、瓦が入っているのに、アヒーはガツガツ食べているねぇ。とうとう、鬼に乗っ取られてしまったんだねぇ…。」

そこでウターが着物の裾をずらしてアヒーに見せると、アヒーは「何だそれは!」と怯えはじめました。その隙に、ウターはアヒーを一気に崖から突き落としたのです。

このウターが作った鬼退治の餅は、村じゅうで挑んでも退治できなかった鬼さえも退治できる力持ちの餅として、「ホーハイムーチー(力持ちの餅)」と親しまれ、今に残った旧暦行事がムーチー(鬼餅)です。

 

子どもの健やかな成長を願うムーチー行事(厄払いから子供の成長祈願へ)

ムーチーの昔ばなし

このように、マブイ(魂)の存在を信じる沖縄では、ヤナカジ(悪い霊)やシタナカジ(汚い霊)、マジムン(人に憑依する妖怪)などが人々の暮らしの傍にいたため、ムーチー(鬼餅)ももともとは悪疫祓いの行事でした。

けれどもいつしか、今では子どもの健やかな成長を願う行事へと変化しています。アヒーが子どもを食らう鬼だったことも、影響しているのではないでしょうか。

特に、その年に赤子が産まれたヤー(家)は大忙しです。無事に赤子が産まれたことを感謝しムーチーをいっぱい作り、「ハチムーチー(初ムーチー)」として親戚縁者へ配る風習があります。

そして子ども達が大きくなると、一歳・二歳・三歳…と、年齢の数だけ繋げたムーチーを鴨居に吊るし、ムーチー(鬼餅)の日にいただきます。

また「力持ちになるように」と、男の子にはサンニン(月桃)ではなく、より大きく神木ともされるクバの葉に包んだ「チカラムーチー」を与える家もありました。

ムーチーはサンニン(月桃)に包んで蒸しますが、このサンニン(月桃)の独特な香りも、ヤナカジ・シタナカジを祓ってくれます。そしてムーチー(鬼餅)をいただくと邪気祓いとなり、一年健康です。

 

濱比嘉さんのムーチー(鬼餅)話(濱比嘉さんのエピソード)

ムーチーの昔ばなし

ムーチー(鬼餅)の日の朝は、ヒヌカンとお仏壇にお供え物をして、今日の日がムーチー(鬼餅)であることを報告し、ヤー(家)の一年の厄祓い、家内安全、家族の健康(特に子ども達の健やかな成長)をお願いします。

とは言っても、ムーチー(鬼餅)をヒヌカンとお仏壇、床の間(トゥクヌカミ)があれば床の間へ、それぞれ3つずつ、サンニン(月桃)にくるんだままお供えをするだけです。

ヒヌカンへはヒラウコー(沖縄線香)をタヒラ半(2枚と半分)、お仏壇にはタヒラ(2枚)を供えます。

「ウートゥートゥー ヒヌカン(ウヤフジ)ガナシー、
(あな尊き ヒヌカン様)

チューヤ ムーチーヌヒ ナトゥイビィン。
(今日はムーチーの日でございます。)

クマカラ カリユシヌ ムーチー ウサギティーンビングトゥ、ウキトゥイジュラサァ ウタビミスーリー。
(縁起良きお餅をお供えしましたので、受け取ってください。)

ヤナカジシタナカジヤ ウシヌキティクィミスーチィ、チネーサンムトゥヤー エェクトゥ アラティ ウタビミスーリー。
(悪い霊汚い霊を押し退けてくださり、家には良いことばかりが訪れますように。)

クワッウマガンチャア カラタガンジュゥシミティクミスーリー。
(子ども子孫皆が 体も丈夫にしてくださいますように。)

ミーマンティー ウタビミスーリー、ウートゥートゥー。
(見守っていてください。あな、尊き。)」

家族でムーチー(鬼餅)をいただいたら、残ったサンニン(月桃)で、子ども達と「ウニヌマタ(鬼の股)」を作ります。サンニンの葉を折り曲げて十字にし、紐で結ぶだけでできあがりです。

ムーチーの昔ばなし

できあがったウニヌマタ(鬼の股)は、家の四隅に吊るして結界を張ると、ヤナカジ(悪い霊)シタナカジ(汚い霊)を跳ね飛ばしてくれますよ。

 

ファミマのムーチー(鬼餅)がありがたい(ファミマで販売するムーチーについて)

ムーチーの昔ばなし

ムーチー(鬼餅)が行われる旧暦12月8日頃の寒さを「ムーチービーサー」と言うように、昔の沖縄ではムーチーを包む、たくさんのサンニン(月桃)の葉を洗うだけで、手が冷たくて凍えるようでした。

けれども今では、沖縄ファミリーマートなどのお店で美味しく、紅芋やかぼちゃなど色とりどりのムーチー(鬼餅)を購入できます。ありがたいですね。

昔ながらの沖縄のムーチー(鬼餅)では、蒸した残り汁を庭に撒いて「鬼の足を湯がく(ウニユサ ユゲーシ)」しましたが、今ではお湯を撒いたり、食べ終わったサンニン(月桃)の葉を茹でて、茹で汁を撒くお家も見受けます。

これは「念には念を」の習慣なので、必須の行事ではありません。

ただ、もしも茹で汁を撒く時には、「ワッサ・ビナサ、ヤナカジ・シタナカジヤ、ムル ウシヌキティー クィミスーリー!(悪しきもの・穢れもの、悪い霊・汚い霊、全て押し退けてくださいなぁ!)」と、お願いしながら撒いてくださいね。

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参考文献:「沖縄市文化財調査報告書第26集『 むかしばなし 』」