2015.06.23

南の島で会いましょう ファミ友FILE:001
BEGIN 比嘉栄昇さん 


25年の音楽活動を経て出会ったブラジル音楽
優しい一体感を味わい、音楽の力を改めて知る

大ヒット曲『恋しくて』のデビューから今年で25周年を迎えたBEGIN。2015年6月24日(水)発売のNEWアルバム『ビギンのマルシャ ショーラ』は、ブラジルと沖縄の音楽を融合させ、彼らの生まれ故郷である石垣島のスタジオで録音された、今までの日本の音楽CDにはなかったであろう新たな参加型の音楽スタイルです。

2001年にスタートした『うたの日コンサート』も今年で15回目を迎え、2015年6月27日(土)に沖縄県嘉手納町兼久海浜公園で開催されます。新たな可能性に向かってチャレンジし続けているBEGINの比嘉栄昇さんに、今の想いを伺いました。

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─デビュー25周年おめでとうございます。25年を振り返ってみて、どのような想いがありますか。

25年経って、全国区とか、メジャーデビューとか、そういう言葉の響きがデビューの頃とは全然違うなと感じています。あの頃、自分たちは変わってしまうんじゃないか、また変わらなければ音楽業界にはいられないんじゃないかという不安がありました。ファンの方々に納得してもらう音楽をやるためには、故郷というものを強く持っていてはいけないんじゃないかと思ったこともありましたよ。

デビュー当時、ライブで毎回「沖縄出身のBEGINです」って自己紹介していたんです。でも「普通言わないよ。デビューしたらみんな一緒で、どこ出身の誰々ですって言わないでしょ」って指摘されて…。言われてみれば確かにって思ったんすけど、でも何かしっくりこなくて。「沖縄で生まれたんだから、いいじゃないですか!」って頑なに思っていました。今思い返すと、何をそんなにこだわっていたんだろうって思うんですけどね。あの頃は、ウチナーンチュでも普通に標準語で歌えるんだ!ってことをきちんと伝えたかったし、すごく大事なことだったんですよ。

25年経って、デビューの頃よりも今の方が石垣島を離れた18歳の頃の気持ちに近いと思います。気持ち的に何も変わらずに島に戻ったみたいな気がしますね。

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─25年の時間があったからこそ、変わらない気持ちで石垣島に戻れたのでしょうか。

そうだと思います。だから今は、音楽をやることが特別なことではないし、農家の人が畑仕事をするように、建設業の人が家を建てるのと同じように、音楽をやって歌を作る職業だと思えるようになりました。また、時代もそういう風に変わってきてくれたから、自分としてはすごくやりやすいです。

─今は、本土との距離があまり感じられなくなったということはありますか?

沖縄とひと言でいっても、本島も八重山も宮古もあってそれぞれ言葉が違うように、本土もそれぞれ地域ごとに細かく分かれているんですよね。ツアーで全国を回らせてもらったおかげで、日本の広さとか、文化の多様性とかいうものを体感できたから、逆に日本がとても広く感じるようになりました。

ツアーで回っているとき、自分はライブ会場とホテルの往復くらいしかしないので、その土地のことを詳しくは知らないんです。でも、ステージの上から見て、お客さんの感じはわかります。『島人ぬ宝』の歌詞じゃないけれど、ガイドブックで下調べをしたり、観光名所を巡ったことでは見えてこないような気がして。ライブでお客さんと一緒に過ごしたひとときで、もう十分なんです。

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─NEWアルバム『ビギンのマルシャ ショーラ』について聞かせてください。

ブラジルは世界で一番、日本からの移民が多い国なんです。そのブラジルにいる84歳になる坂尾英矩さんから託されたのが、サンバが生まれる前からブラジルで歌われていた音楽「マルシャ」。哀愁のあるメロディーと、とにかく歌詞が少なくて、同じ言葉をずっと繰り返しているんです。「マルシャ」とは「マーチ」の意味で、二拍子の音楽です。曲も歌詞もシンプルで、昔のブラジルのカーニバルは、サンバではなくてマルシャだったそうです。

どうしてこんなにシンプルなのか自分なりに解釈すると、ブラジルは多民族国家だから、共通言語がないなかでは、言葉で相手に伝えようとしても無理。だから、琴線に触れるメロディーと繰り返しの言葉のマルシャが生まれたのかな。ブラジルに移民した日本人の方々も、このマルシャに助けられた人がたくさんいたんだろうなと思います。

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そういう流れもあって、去年の「うたの日コンサート」は、ブラジルのミュージシャンの方々にも来てもらいました。でもやっぱり新しいものを伝えるのは難しいですね。マルシャという音楽はこういうものだと、説明すればするほどごちゃごちゃしてわかりにくくなる。でもそれを続けていくことによって見えてくるものがあるから、その流れを止めてはいけないと思って、アルバムを作ろうと思いました。ブラジルの音楽をそのまま借りるのは失礼なので、新しく自分たちなりに解釈しました。ブラジルの「マルシャ」に八重山方言で「~しましょう」という意味の「ショーラ」を合わせて、「マルシャ ショーラ」=「マルシャしようよ」という意味です。

昔のドーナツ盤は3分ちょっとで収めなくてはいけなくて、歌は一旦そこで終わるものみたいなイメージがあったんですよね。でも坂尾さんからいただいたマルシャのCDを聴くと、ずっと繋がっているんです。一曲終っても、ずっとリズムが残っている。それを聴いていると、だんだん気持ちがよくなってくるんです。ランナーズハイに近いのかな。

フェスで「マルシャ ショーラ」を演奏したら、本当に特別な空気が流れたんです。その時、坂尾さんが言っていた意味はこれか!僕らが音楽のいいところを見失っていたのは、これなのかもと思いました。音楽って止めちゃいけないんです。

たとえ緊張していても、3分くらいの歌を歌い終わると、そこで緊張も終わるんですよね。でも3分、5分と歌が続いていると、緊張感ってそんなに持たないから、次第に緊張が解けて楽になってくるんです。マルシャの二拍子のリズムのなかで揺れていると、だんだんと気持ちがほぐれてきて、周りもそんな雰囲気になってきて、今まで味わったことのない優しい一体感がありました。その感じって、大昔に人間が発見した音楽の力じゃないのかなって思います。

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─今年の『沖縄からうた開き!うたの日コンサート2015 in 嘉手納』では、そういった一体感が味わえるかもしれないですね。15回目を迎える今年の見どころ、聴きどころを教えてください。

今年は全員参加です!これは全員参加の気持ちでという意味ではなくて、本当に全員参加ですよ。時代は次々に変わっていくので、その時代にやれることがどんどん出てくると思うんですよ。今、プロのミュージシャン、歌手、アイドルという垣根がなくなってきています。もう聴く時代ではなくて、歌う時代。歌いやすい歌、みんなで盛り上げるための歌、歌ってもらうための曲作りになって、歌うことが当たり前の時代になっていますよね。その次は、演奏して、歌ってください。そして次はきっと、自分で作って歌いましょう!それが当たり前になる時代がきっと来ますよ。パソコンだって、昔は限られた人たちしか触れなかったのに、今はみんなが触っています。楽器だってきっとそうなって、歌の作り方さえわかれば、それぞれが歌を作って歌えばいい。そうなってほしいと思います。

6月24日の「うたの日」というのは、沖縄で歌が解放された日です。6月23日の「慰霊の日」は、二度と間違いを起こさないために大事なものです。でも、それだけでは気持ちが晴れないから、戦争が終わって、もう歌ってもいいよ、笑ってもいいよとなって、今の沖縄があると思いたい。戦争の厳しい部分を教えることも大事ですが、僕らは歌でみんなの気持ちを切り替えて、歌を解放したい。そう思ってやり続けています。

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「うたの日コンサート」を始めた頃は、沖縄にいろいろな有名アーティストが一堂に会してコンサートを開くことがなかなかなかったので、最初はコンサートを開くだけで「うたの日」として成り立っていたような気がします。けれども時代が変わり、今ではいろいろな場所でフェスが行われています。それなら、「うたの日」は何のためにあるのかと自問自答することもあります。

そこで思ったのが、「うたの日コンサート」のステージは、プロのミュージシャンだけのものじゃないってこと。メインは歌なんだから、みんなで歌に感謝しよう、歌のお祝いをしよう!ということです。誕生日パーティーのようにみんなで歌のお祝いをする場を作っているのだから、そういった意味で全員参加して、みんなが歌のために何かをやってあげる役割があるんです。

沖縄は、エイサーやフラ、サンバなど、いろいろな人たちが音楽に携わっていますよね。そういった人たちが一堂に会して、みんなで表現する日っていうのが「うたの日コンサート」の意味なんじゃないかと思います。あのステージに上がりたいという人がいっぱい出てくるようになってほしい。ブラジルでは、カーニバルに出るために一生懸命頑張っています。そういう風に、年に一回の「うたの日」の大きなステージがみんなの目標になればいいなと思っています。

「うたの日コンサート」のステージは、プロの人だけが立つステージじゃないという新しいことを伝えるのが難しいですが、徐々にやりながら伝えていきます。そうやって今回、全員参加、出演者1000人と言っているのが大きな転換期になって、何十年後に「これがあったからずっと続けていられたね」と思う日が来るかもしれないから、2015年の「うたの日」は大事だと思います。

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─沖縄のファンのみなさんにメッセージをお願いします。

たくさんの人が1年間練習した成果をステージで発表する「うたの日」を目指しています。今回「うたの日」を観ていただいて、次回は観に来るのではなく、出演しに来るという気持ちになってほしいという僕たちの思いを、ぜひ受け取ってほしいなと思います。


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【プロフィール】
BEGIN(ビギン)
左から上地等(Key.)、比嘉栄昇(Vo.)、島袋優(Gt.)。
メンバー全員、沖縄県石垣島出身。1990年シングル「恋しくて」でデビュー、代表曲には「島人ぬ宝」、「涙そうそう」などがあり、ブルースから島唄まで多彩な音楽性と温かい雰囲気で多くのファンを魅了する。今年3月、デビュー25周年を迎え、故郷の石垣島で記念コンサートを開催。
2015年6月24日(水)NEWアルバム「ビギンのマルシャ ショーラ」をリリース。
アルバムCD+DVD 価格2,778円(税別)