2015.11.03

サンゴ養殖の第一人者、金城浩二さん ファミ友FILE:006


悲しいことは楽しいことへ!
サンゴに価値を持たせ、自然を育む職業を創りたい

金城浩二さん

サンゴ養殖の第一人者として有名な金城浩二さん。
さまざまな賞を受賞し、サンゴ養殖への取り組みが映画化されるなど“サンゴ=金城浩二”といっても過言ではないほど。今までにないサンゴ養殖の技術や仕組みを発案したり、クリーンピック(ビーチクリーンイベント)を主催するなど、面白いアイデアやこれまでにない企画にも驚かされます。そんなユニークな発想力はどこから生まれるのでしょうか。

早速お話を伺いに、金城さんが運営するサンゴ養殖施設「さんご畑」にお邪魔したところ、「その前に、ちょっとサンゴの勉強しようねぇ」と、にっこり。読谷村高志保にある「さんご畑」の目の前には、真っ青な海が広がっています。そこは移植したサンゴたちがすくすくと育っている場所。その海を眺めながら、沖縄の海やサンゴに対する熱い想いを伺ってきました。

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僕はこの読谷の海の1.8m四方にサンゴを約12万本植えているんだよ。サンゴとサンゴ礁は同じではなくて、山に例えるとサンゴは林で、サンゴ礁が森。「サンゴ礁が蘇るには何万年かかる」ってよく言われているからサンゴは成長が遅いと思われがちだけど、1ヵ月で1cm伸びる。本来は雑草のようにどんどん生えるものなんだよね。そうやってできた地形がサンゴ礁。 

海を見て、波が立っているところあるでしょ。あれがリーフ。リーフがなかったら、波を止めるために防波堤を作らなければならないけれど、仮に沖縄本島全体を囲む防波堤を50年減価償却で作るとしたら、毎年約600億円もかかってしまう計算になるわけ。さらに、サンゴ礁の海1haから獲れる食料で、約40~80世帯が半永久的に生きていけるほど、サンゴ礁があることで海が豊かになるっていわれているんだよ。

─サンゴ礁があるってことは、本当に凄いことなんですね。

そう。サンゴって「スゲー」でしょ。
沖縄の白い砂浜は、サンゴの欠片でできている。1mくらいのイラブチャー(ブダイ科類の総称)とかが、サンゴの枝を食べてサンゴが砕かれたものがフンとなって出てくる。1匹のイラブチャーが作る砂の量は年間約2t。もしサンゴがいなくなったら、イラブチャーのようにサンゴと密接な生き物もいなくなって、砂の生産もなくなってしまう。

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  • 沖縄の海岸沿いの岩壁を見ると、ゴツゴツしているでしょ?あれはサンゴでできているんだよ。溶岩のように硬い層の岩の上にサンゴ礁ができて、それが隆起してできた島が沖縄。

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  • サンゴの岩は複雑な穴だらけの石だから、地下にろ過されたキレイな真水を蓄えることができる。そのサンゴの岩から植物が生え、土ができ、鳥がやって来て他の種がまかれ、楽園と呼ばれる島ができ上がったんだよ。だから、僕らはサンゴの上で生活しているわけ。サンゴがなかったら沖縄はなかったよ。

─サンゴって、もっと弱い生き物かと思っていました。私たち人間の方が今までサンゴに守られてきていたんですね。

だけどね、僕が小さい頃に生きていたサンゴ礁を100だとすると、今はその10%くらいしか残っていない。島の発展のために自然の価値を理解せずに開発してきた結果、サンゴはかなり滅亡してしまった。

「さんご畑」で養殖しているサンゴはおよそ120種類。
知識も経験も何もないところから始めたけど、陰を好むサンゴや、水深5m以上に棲むサンゴとか、さまざまな種類のサンゴを実験しながら育ててきたから、海に移植するときにどの種類をどこに植えたらいいのかわかる。サンゴが産んだ卵が同じ種類の別のサンゴの卵と海面で出会えるように、別の親から採ったサンゴを近くに植えているんだよ。

イルカやヤンバルクイナも絶滅危惧種で保護されているけど、サンゴの場合1種類だけでなくサンゴ礁全体が危機なわけ。今の沖縄の海はとても危うい状態。僕の目標は、たとえばイルカが1匹迷い込んだらニュースになるのと同じように、サンゴが絶滅危機状態であることや、サンゴの価値にも広く注目してもらうこと。

─サンゴを守るって、大きなレベルの問題なんですね。

僕は小さい頃、海の中に潜っていたらいいあんべー(いい気持ち)だったから、ずっと海に潜っていた。 それからどんどん海が崩壊していくのを何度も何度も見てきた。僕の秘密基地を大人に壊される感覚になったよ。その頃「海を守れ!」って言うおじさんが格好良く見えたんだけど、それを何十年も繰り返し見てきたら、何も解決していないことを肌で感じて。だから僕は“生態系を育む自然”を人間が創るっていう発想に切り替えて、職業を創っているつもり。

─これだけの規模の養殖場を作るにはご苦労があったかと思いますが、いかがでしたか。

金城浩二さん

僕がサンゴ植えようって決めたときも大変だったわけ。
公共工事で橋を作るとき、水中でコンクリートに穴を開けると当時1穴8,000円。僕らは水中で穴を開けて、サンゴを植えて写真を撮って、緯度と経度を計って、感謝状を届けて3,500円。最初はもっと値段を上げないと無理だなぁって思ったんだけど、僕は安易だから“サンゴ”だけに“3,500円”(笑)。協力する人が増えればどうにかなるだろうってことだけで始めた。 

養殖場を作る計画もリーマンショックですべて白紙になって、結局自分でコツコツやるしかなくてね。アダン林だったこの土地を1人で刈っていたら、知り合いがチェーンソーを貸してくれたりユンボを持ってきてくれた。
そしたら映画「てぃだかんかん」の話が来て、養殖場を作るためのコンクリート代を出してくれるならってことでOKした。美術セットを作ってくれって相談があって、「撮影が終わった後、俺にくれる?」って聞いたら「いいよ」って。この養殖場に入るように寸法を測ってからセットを作って、映画が終わるとここに引っ越してきて、養殖場を完成させた。

さんご畑

─数々の受賞や金城さんのことが映画になり、多くの方に知られるようになって活動や環境に変化はありましたか。

“良い人”って言われるようになった(笑)。 最初の頃はみんな、サンゴを植えるっていう発想がなかったから「サンゴを植えましょう」って言っても協力者なんていなかったわけ。サンゴ養殖のロゴマーク入りのTシャツ作り、その売り上げでサンゴを植えて。買ってくれた方にサンゴを植えた証明書を発行して送付していた。それが今では、Tシャツはいらないからサンゴ養殖だけお願いっていう人が増えてきて、みんなの意識が変わってきているのを感じるよ。

─ビーチクリーンを始めたきっかけは何ですか。

サンゴの問題は、サンゴを植えていたら解決できると思っていたけど、実のところ問題は他にもあるってことを肌で感じ始めてきていた。サンゴを植えている海のビーチに流れ着くたくさんのゴミを週1回掃除していたんだけど、きりがない。台風の後、外はゴミだらけになるから掃除するよね。でも海に出た分のゴミを拾う仕組みはないわけ。 ボランティアで声をかけると、最初はたくさんの人が来てくれるけど、回数を重ねると仕事で忙しかったりでなかなか取り組めない。そんな人たちにも継続してゴミを拾ってもらえる仕組みを作ろうと思ったのがきっかけ。 面白い!って思えたら続けられるから、“悲しいことは楽しいことへ”変えることが必要だと、僕はサンゴから学んだ。だからビーチクリーンをスポーツにしよう!賞金をかけよう!と思いついたわけ。

─このアイデアは凄いですね。

アホって言われるかもしれないけど、ゴミ問題を解決することを無理だと諦めたら、僕がサンゴを植え続けてきた理由が嘘になる。せっかくやるのなら真面目に拾いましょうじゃなくて、ゴミで経済効果も上げられたらと思って。日本中から沖縄中のビーチに選手たちやってきて、並んでゴミを拾って、いつか“沖縄から漂着ゴミが消える日”っていうのを作りたい。県外から参加している人たちは、飛行機に乗って、ホテルに泊まって、参加費を払って、ゴミを拾って、そこに“楽しむ”っていう価値を見出している。クリーンピックの参加者が増えて、県外でも開催できていることは、その価値を共有する人たちが増えてきている証拠だなぁと。

─前回・前々回のクリーンピックもみなさん楽しそうでしたね。

みんなで笑って楽しみながらクリーンピックやって、賞金もらったらいいさー。 クリーンピックで優勝した兄ちゃんたちが、その後ボランティアでビーチクリーンやったりしている。ボランティアには興味ないけどお金が欲しいって人が集まってきて、ゴミを拾って「やばいよな、沖縄」って思ってくれて、家に帰ったとき意識が変わっているみたい。

─サンゴがいる海に入るときに意識してほしいことはありますか。
 サンゴは動物

サンゴが動物だと知ってほしい。サンゴが動物って知らないから、みんな海に入るとき踏んで歩くわけさ。もし足元に虫がいたら、みんな踏まないように歩くでしょ。

─沖縄の海が大好きなみなさんに、メッセージをお願いします。

例えば、好きな人に振られたとき、会社が倒産しそうで辛いとき、海で癒される。悲しいときもあるけど、そんな人たちが癒される場所をより良くしていく仕組みをみんなで楽しみながら作りたいですね。


【プロフィール】
金城 浩二(きんじょう こうじ)
1970年生まれ、 沖縄市出身。
サンゴの白化を目の当たりにして、サンゴの植え付け法や仕組みを試行錯誤し、人工による養殖サンゴの移植と産卵に成功。永続的に「サンゴ礁を次の世代へ」を合言葉に、サンゴの養殖活動を始める。2004年「有限会社海の種」創立。読谷村高志保に、10万株・1,200種のサンゴと200種類以上の生き物を観察できる観光スポット「さんご畑」を開園。サンゴ養殖とともに海の清掃活動も続けており、ビーチクリーンをスポーツにした「クリーンピック」を2013年から毎年開催している。2007年「人間力大賞」「内閣総理大臣奨励賞」「環境大臣奨励賞」を受賞。2010年、自身がモデルになった映画「てぃだかんかん」公開。


 Famiポート基金

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  • 店内に設置されている「Famiポート」を使って、「サンゴ養殖の移植放流」に募金できます。

クリーンピック全国大会in沖縄